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新型コロナで騒がしい時節柄ですが、例年通り、1~3月は入退去が多いシーズンです。
最近は、新築物件でもない限り、入居時に敷金を預かるという文化がほぼ壊滅したため、敷金・礼金がゼロゼロという物件もめずらしくありません。
敷金をあずかっていない物件の場合、退去時に必ず行う「退去立会い」時に、経年劣化や通常損耗で破損、汚損していたりした部分の修理費用を借り主とするのか、貸主が負担するのかという点で見解の相違があり、揉めるケースがあります。
貸主からすれば、住んで汚れたんだし、「原状に回復するための費用」は借主が負担すべきでしょってなりますが、今現在、そういうわけにもいかないケースがあり、基本的には特約できちんと明記していない限り、経年劣化に伴う破損汚損について修理費用を負担させることはできないというのが実情です。
ケーススタディ(退去時の原状回復費用)
物件A号室
【入居時】壁紙などすべて新品でリフォーム済みの部屋
【退去時】床に大きな凹みあり、壁にタバコのヤニ汚れ、
コーヒーのシミあり、冷蔵庫などによる変色や日焼けの変色【入居期間2年 退去後リフォームにかかった費用】
- 壁紙張り替え 70000円
- 床のキズ、凹みの修理 30000円
- ハウスクリーニング費用 30000円
- 鍵交換費用 20000円
合計: 150000円
契約書で特約がない場合
契約書で特約がない、または契約条文でもどちらの負担とするかの記載がない場合は、基本的には国土交通省の出す指針にしたがった請求をすることになります。指針では今までの判例をもとに出されています。
上記のケーススタディを例にした場合
壁紙張り替えの一部 20000円
床のキズ・へこみの修理 30000円
のみになり、残りの、10万円は貸主負担になります。
考え方としては、「経年劣化による損耗は、家賃で相殺される」となっています。
ですので、キズや凹みによる破損は、経年劣化による損耗ではなく、居住者の故意過失によるキズですので入居者が負担すべき費用ですので全額借主負担となります。
また、タバコのヤニやコーヒーのシミも経年劣化には該当しませんので同様です。
ただし、汚れている壁面の分のみの負担となりますので、全額負担とはなりません。
契約書に特約を明記している場合
特約でリフォーム費用すべてを負担させることはできませんが、一定基準以内のものを負担してもらうことは可能です。
例えば、
特約
下記の通常損耗や経年変化の修理費用は、入居者の負担とします。
(1)明け渡し後の貸室全体におけるハウスクリーニング費用 30,000円
(2)鍵の交換費用 20,000円
(3)台所及びトイレの消毒費用 10,000円
こう明記しておくことで、「経年劣化」や「通常損耗」にあたる破損・汚損部分の修理費用も借主の負担とすることができます。これは最高裁でも判例がでているため、記載方法にミスがない限り、有効となります。
契約書に特約があっても無効になるケース
注意しなければいけないのは、特約が無効になるケースです。
無効になるケースでもっとも多い2例を参考にします。
- 抽象的な記載
- 単価のみの記載
- 法外な値段設定
抽象的な記載の例
「通常損耗や経年変化の修理費用は、入居者の負担とする」という記載は抽象的な記載としてして、特約の効力は無効となります。
これは「借主が契約時に退去時に負担すべき費用が明示されていない」ことが原因となります。つまり、特約で金額を明示した上で契約を締結したのであれば退去時の費用を認識していたと理解できますので、その特約が有効だといえます。
単価のみの記載
「退去時に壁紙張り替え費用の負担として1平米あたり1000円支払う」という記載も入居者にとっては部屋の総平米数がわからないので、無効です。
法外な値段設定
どうせ退去するんだからボッタクってやれとまではいいませんが、あまりに法外な値段設定の場合は、無効となるケースもあります。
最高裁判例では、「月額賃料の3倍」までは認められています。
ですので、それ以上となるケースはよほどの事がない限りは超えた額の一部が無効とされるケースもあります。場合によっては借主を騙す意図があるとみなされる場合は特約自体が無効とされるケースもあります。
仮に月額賃料が4万円の場合、12万円程度までであれば認められるだろうということです。
まとめ
契約書において、借主に不利となる条文や特約を無効とされるケースが多く判例としてだされていますので、貸主に有利な条文や特約は、「きちんと明示して」おく必要があります。
また、例外として上記のケーススタディでは、入居時に新品の壁紙にリニューアルしていますので、入居時を100%として計算していますが、判例では、入居時に壁紙をリユースしている場合や、リユースしている機器の場合、かりに破損・汚損したとしても全額負担をさせられないケースもあります。
借主と貸主双方にとってフェアな契約が令和スタイルの契約といえるのでしょうね。